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花は毒にも薬にも…
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花崎です。
三郎と誰かのお話です。

◆注意事項◆
江戸時代パロ
※陰間だとかなんだとか色々できます
誰か×三郎
笑顔で終わるお話ではありません

以上、問題のない方はread moreよりお進み下さい。




自己主張をするように広がる鮮やかな着物を片手で拾い上げ、1つため息を吐いた。
大分に今の状況がどうしようもないことの自覚は多いにあって、眠っているのかそうでないのか解らないその寝顔を振り返る。
「     」
大方眠りの中で名を呼んでいるだろう声に、「なんだい?」と耳に寄せて問いかける。
「     」
同じ言葉が繰り替えされ、眉を顰めた。

「嗚呼、難儀なもんだねえ」
 
生れ落ちた場所が悪かったのか、時代が悪かったのか。
血を吐くほど芸を仕込まれ、覚え、床の振舞い方を見続けた。

くっと引かれた袖に振り返る。
「?」
「どこへ」
「ちょっと厠へね。寝てていいよ」
別にこの身が女ならば、などと思ったことはない。
この身だから、稼げるものがある、生き行く術がある。
 
きんと冷える冬の夜がすっと開いたふすまの隙間から流れ込む。
冷え切った床に一瞬だけためらって出た回廊から見上げれば、ふすまを閉じた数刻前には居なかった細い月が笑う様に空に居た。

 

「また、艶やかなものを作ってもらったね」
「これくらいじゃあないと…」
濃い朱色に金糸銀糸を散りばめた大輪の花模様は吉原の太夫も早々選ばぬといわれた。
女と張り合う気はないが、どう頑張っても競えぬ部分を補う必要性も己には必要で。
「お店には止められたんだろう?」
「そうだね」
いつぞやよりもだいぶ男性のそれらしくなったからねぇ、といえば馴染みの呉服屋はそんなことございませんと慇懃な口調で笑いながら身丈を測っていく。
(本当にもう成長などいらないんだけどね)
呉服屋とのやり取りを思い出しながら艶やかな着物を体にひょいと引っ掛けながら、にんまりと口元に笑みを描く。
「似合う?」
「何でお前はそんなのばかり・・・」
己が着ると派手な着物はどうにも不愉快な雰囲気になるのは知っている。
落ち着いた色使いのほうが似合うのにとぶつぶつ言う片割れに笑いかける。
「似合う?」
「はいはい、似合いますよ。どこの旦那に強請ったの?」
「強請る?作ってくださるというものを断る理由もないだろうに。」
似合うから、一枚くらい、己からのもの…くだらない見得を張り続ける男たち。
どうせ作ってやるなら吉原の太夫にすればいいものを。
己の値と彼女たちの値に大差がないことは知っているが、それにしたって男に貢いで何が楽しいのやら。
(まぁ、そういうお客がいないとここもやってはいけないのだけれど。)
「馬鹿だよねぇ。吉原に金子を落とせばその格もあがるだろうに。」
「ある意味、太夫じゃないか」
「そんなもの、いらない」
(だって、そもそも格付けなんてないじゃないか)
女心を知る為の修行、体のいい理由なら幾らでもあるし、作られる。
「また、そんな・・・」
「いらないよ」
会話に忍び込んだ沈黙を追い出すことなく、座り、肩から着物を下ろす。
本当はもう少し抑えた色が良いし、その方があの日なくしたものにも近づける気がする。
思い出した光景と思い出した匂いに吸い込んだ空気に煙の色がのる。
「だったらあの時お断りしなきゃよかったんじゃないの」
「さぁ、ね。」
今更いっても詮のないことさ。
床に直接置いた盆からゆるうりと淡い画を描いて煙が昇る。

 「支度を始めておくれや。夜の座まで時間がないよ。」

扉の外からかかる声に、やる気のない声で返し、出来上がったばかりの着物を戻す。
「さて、準備しようか。」
「全く持ってやる気が見えないよ。」
己とそっくりの顔があきれた様に笑った。
「最近天気が悪いだろう?お大尽方はそういう日は暖かなねぐらにいるのさ。」
「ねぐらって。」
声に視線だけを返して、白粉を乗せた刷毛をとる。

 

足音を忍ばせても響く朝の近い夜に、しんっと冷える廊下に腰を下ろす。
「まだ、居たの。いつもは夜中に帰るのに。」
寝ていると思っていた相手が障子を開ける。その片手にはゆるぅりと紫煙が立ち上る煙管。香る。
「お足を頂いてないからねぇ」
ひらひらと目の前で手を振ってやれば笑うと幾分と幼く見える笑顔が、今すぐに欲しいの?と問う。
「別に。若旦那はお足を止めたことはないし、今度でいいさ。」
「若衆は大変だね。」
「それがお職というもんさ。大門に囲まれた吉原じゃなし、これも仕事のうち。修行のうち。」
「うちにこない?」
「若旦那の奥にかい?冗談にしたらきついねぇ。まだまだこの身一つで稼げるさ」
(稼げなくなったら終わりだよ)
ま、いってせいぜい妾さね。
からからと笑いながら告げれば意外と真面目な話だったのか、苛立たしげに眉が寄る。
「冗談…?」
「じゃなかったら、最悪さ。」
「じゃないといったら?」
「大店だよ?大旦那に跡継ぎがご乱心だと伝えるしかないね。」
自分がここに通うのを知る大旦那は自分の居る座の良いお客。
世の中いくら、色事を極めるには二色と言ってもそれは陰でやるもの。
「だからさっさと見合いを受けてしまえばいいのさ。」
「…。」
「言っておくけどねぇ、若衆と女はちがうよ?」
目の前にいる人間が根っからの遊び人とは知っているけれど、ここまで言わないといけない謂れは若衆である自分には無いはずだ。
口に含まれることなく漂う煙管を勝手に奪い加える。
簡単に手に入れられないような香りが広がり、あぁこの人は大店の跡継ぎなんだと笑う。
「煙管なんて飲んだっけ。」
じっとりと隠し切れない苛立ちが漏れる。
「もったいないじゃないか。ゆらゆらと。声が悪くなるから飲まないよ。」
有名な一座で女形を張る以上声は大事な商売道具だ。芸と伽とともに。
「そんなにその立場は大事なの。」
「さぁね。考えたことなんてないよ。生まれてからずぅっとこうだしね。ねぇ、若旦那。」
「?」
「もう買ってくれとは頼まないよ。」
「着物?」
「まさか、色さ。もうこっちにきたら駄目だ。あんたにはお店がある。将来もある。」
「そんなの」
「馬鹿をお言いじゃないよ。」
夜の間ずっと庭に落としていた下駄に足を入れる。
夜露を吸ったつめさが、しっとりと足を包む。
そろそろ戻らねば昼の座までに眠る時間がなくなる。
「我が屋に大店とのつながりは大切。だけどねぇ、幼馴染とはいえその人の将来とまで繋がる必要は無いのさ。」
「三郎。」
「こんど座を観にきなよ。旦那の知らない私がいるよ。」
愛しいと・恋しいと言ってくれる腕は温かくて、色を目当てにくる大店の旦那たちとは違って確かに心地はよいけれど、これ以上は相手の将来を潰しかねない。
後ろから呼ぶ声と庭に降りる音が聞こえる。
声にも足音にも追いつかれないように裏の木戸をくぐる。

 

 

恋と言う字は愛しい愛しいという心なのだと、誰が教えてくれたのだっけ。
もう遠い昔過ぎて、覚えていないけれど。

「明日は、晴れるかね。」

にんまりと笑う月と目が合った。

 
FIN

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