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花は毒にも薬にも…
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こんばんは、花崎です。

out of hearingシリーズの2話目です。
今回は冬のお話し。
私が通ってみたいなって思った海外の大学に兵助を通わせてしまいました。
なんていうそんなお話です(笑)

【注意事項】
・現パロ
・中心は5いとハチ
・オリジナル設定
 ⇒勘ちゃん、へいすけ、はちは幼馴染
 ⇒へいすけは耳が聞こえず、声が出ないという設定
・大分上記3人に花崎が夢を見ている


以上問題がないようでしたら『Read more』よりお進みください。

 

拝啓から書き出した手紙は、季節の挨拶で途切れた。
文字を書くことは多分ひとよりも好きだ。というよりも日常に必要不可欠である。
不可欠なその行動がすきなのだから万々歳と言うところか。
そうではあるけれど、残念ながら自分が記す文字は他のひとより大分重みかある、らしい。そう聞かされた。普通のひとにとっての文字がどのような意味を持つのか、それは解るようでわからない。
残念ながらその立場になったことがないからかもしれない。
「止まっているな。」
男性にしては高めの声と、白い指先が添えられた真白い陶器のカップが思考の海を漂う自分を掬い上げた。
「いきなり、書けといわれても」
常より一つ一つの音をはっきりと形作れば、綺麗なひとはことりと首を傾げた。
男性にしては長い髪がさらさらと傾げられた首に続く。
読み取れなかったと解釈して普段から持ち歩いているメモ帳を取り出せば白い手が静止する。
静止したもののとても不思議そうに傾げられた首はそのままで次の言葉を紡ぐべきか迷った。
「難しいことではないだろう?」
「書くことは難しいことではないですね。」
「宛先も決まったのだろう?」
テーブルに寄りかかるように立った人の影で、淡い水色の便箋の色が濃く滲む。
つい先ほど選びなさいと差し出された便箋と封筒は全て綺麗な和紙のようでうすく淡く色づき、また飴色の光をともに抱いていた。
その色を見つめながら問いかけに答えていく。
「日ごろの感謝でもいいじゃないか。」
「かんしゃ。」
「伝え切れていないと言っていただろう?」
小難しく考えることではないさ、とその人は自分用に持ってきたカップに口をつける。
洗練されたと表現できるほど流れるような仕草はこの人の生まれを無言の内に語っていた。
『ことばと手紙は違います。』
『というと?』
神経質そうなそれでいて整った文字ガ問う。
『違うんです。』
『そうか。』
「ゆっくり書けばいい。」
そういいながら白い手が同じようにしろいシュガーポットを引き寄せる。
通うこと4年己の好みがすっかりと把握されていることにそっと微笑んだ。
まさか幼馴染以外できちんと会話が出来る人が現れるなぞ大学に入るまで、いやここに通うようになるまえまで思ってもいなかった。
『もう一種類いただけますか?』
感謝を伝えるのならばこの人にも伝えなければならない。卒業が近づく冬の日。
その日が来る前までに、ましろい便箋に新月の夜のような紺色のインクで、伝えたいとそう強く思った。
 
 
 
【out of hearing ⅱ】
 
 
 
湖の水面を吹き抜けた冷たい風は容赦なく木々の間を駆け抜け、そうして身体を撫ぜていく。
防寒用にと幼馴染から渡されたふわふわのマフラーに顔を半分埋めると幾分か冷たい空気から身を守れたような、そんな気がした。けれども寒いことは寒いので、足は自然と温かく落ち着く場所へと向いていた。
冬木立の間を図書館で借りた本を片手に足早に進む。
他の大学がどのような場所にあるのかとんと検討つかないが周りの言うところによると自分の通うこの大学は他の大学よりもずっとずっと敷地が広く緑が多いらしい。
そうであるからこの大学には森の中隠れるように喫茶店があるのかもしれない。
その喫茶店の店内はオールドウッドで統一され造られたうえに、物語に出てくるようなランプが飴色の光が溢れさせ、いつでも落ち着いた気分にさせてくれる。
逡巡したあげくに同級生より1年遅れで入学した大学は今までの世界よりずっとずっと流れが早く情報に追いつくのが精一杯でやはりやめておけばよかったと、入学早々に後悔した。
今までのように事情を知る人は居なく、慣れていたが故に当たり前になっていた様々汲み取ってくれるような人間関係を一から作らねばならなかった。
ほとほと疲れ果てたときにこの場所にたどり着いた。もうあの春から数えて四度目の冬。
何度も何度も訪れるようになり、そこのマスターを勤めているという院生に始めにこの喫茶店が作られたのは理系の大学院生が自分たちの憩いの場を作る為だったのだよ、と聞かされた。
そうしてそこがいつの間にか温かな明かりで人を招き入れる場所に変わったのだとも。
 
(随分と助けられた)
 
この喫茶店に通うようになってから、同じ学部学科の学生と少しずつだが交流もできるようになった。
ここでは、合わせぬ代わりに合わせてもくれぬが互いの流れを十分に大切にしてくれるそんな居心地の良さを手に入れられた。
だからこそ、卒業の為の論文を書き終えた後も図書館の本をここで読むと凄く気持ちがいいのだと誰に言われたわけでもなく、心の中でつぶやいて通っている。
(春にはこられなくなるもの)
院への進学も勧められたが、もっともっとと思うようになった知識欲を満足させる為、次の春からは外国にある姉妹校の院へ進むことになっている。
 
「手紙を書かないか?」
指定席ともいえる奥のテーブル。
寒さから身体を守ってくれていた温かなものたちから身体を開放していると注文を取りに( といっても何を頼むかなぞ聞かなくても分かっている) マスターがおかしなことをとうてきた。
「立花先輩?」
「なんだ?」
「なぜ手紙?」
「卒業がちかいだろう?残る思いなど整理しなければならないからな。」
そういって笑みを象ったその唇はほんの少し辛そうだった。
後に、彼も同じ春にこの大学( 彼は院生だが)旅立つことが決まっているということを人づてに聞いた。そうして、この大学を彼が去ると同時にこのカフェが幕を閉じるということも。
 
 
 
すっかり暗くなってしまった帰り道、街頭の少ないこの街では、星も月も穏やかな色を地上に届けてくれる。ぽっかりと夜の空に浮かぶ月をぼんやりと見上げる。
そういえば、小さな頃に遊んだ公園の遊具の上に座ってみると普通に見るよりも凄く大きくみえるんだと、子どものようにはしゃいでいた幼馴染を思い浮かべる。
(はっちゃん、元気かな)
1年早く卒業している幼馴染は、畜産農家の役に立ちたいと北の大地へと去年の冬に旅立っていって、それ以来、テレビ電話(これが自分には酷く不釣合いだ)で話しをした以来顔もみていない。
(そういえば、遊びにおいでといっていた)
一気に芽吹く春は素晴らしいのだと、力説していたのを思い出す。
海の向こう大陸を越えた先にある学び舎へ行くのは次の夏。それまでに一度訪れてみようかと思って、一人静かに頭(かぶり)を振った。
(どうせハチに会いに行くのなら、勘ちゃんも誘おう)
一人でそうきめて、決まったらとたんに嬉しくなって、普段は寄り道一つしないのに最近できたばかりの書店によって、北海道と題されたガイドブックを一冊買った。
(勘ちゃんとハチにメールしないと)
 
 
「ただいま。」
響かぬ言葉の変わりに、コツコツと手の甲で扉を叩けば、「おかえりなさい。」と柔らかい声が響いた。
「楽しそうね。」
温かいスープをくるりとかき混ぜながら、振り返った母はそう問いかけるとふわりと笑った。
「手紙をね、書くんだ。」
「まぁ、素敵。今は書かないものね。書くのが好きな兵助だって、年賀状が精々でしょう?」
「うん。」
「だれにかくの?勘ちゃん?はち?それとも不思議な喫茶店のマスター?」
「どうして分かるの?」
「何年あなたのお母さんやっていると思っているの?書くほど貴方が信頼している人なんてそう居ないじゃない。」
「そう、だね。」
「これからも大事にしなさいね。二人の手、離せたんだから。」
ふふふ、とどこか嬉しそうに、そして寂しそうに笑いながら、今日はクリームシチューだから早く荷物を置いてきなさい。
ともう一度笑った。
 
 
まるで御伽噺の中で、森の動物達が使うポストようなそんな風体の箱が一つ。カウンターの端に鎮座していた。ポストと小枝と蔦で書かれているのでポストであるということは疑いようがないのだが、あまりに突然あらわれたそれに兵助はことんと首をかしげた。
「すごいだろう?」
得意げな声に振り返れば、下げ物の途中のマスターがにんまりと笑っていた。
「すごい、ですね。作ったんですか?」
「まさか。建築課の留三郎に頼んだんだ。」
「これほんとにポストですか?」
「まぁ、集配にはこないがな。」
スタッフに下げ物を受け渡し、開いた手でぽんぽんと叩くと軽い音が響いた。
「この前書いた手紙があるだろう?」
これですか?とつい先ほど書き上げたばかりの封筒を三つ示せば、そうだそうだを言わんばかりに頷かれた。
「それ、ただのポストに入れるんじゃつまらないだろう?」
「はぁ。」
手紙なのだから普通に出せばいいのでは?なぞいえる雰囲気ではなく(だってことのほか楽しそうなのだ。この先輩が)しぶしぶと頷けば、白い手がぽすぽすとポストを叩いた。
「ここに入れておけば、森の配達屋さんが町の配達屋さんにとどけてくれるのさ。」
だから、お前も早く入れておしまい、と笑った。
「ほんとうに届くんですか?」
「届くさ。」
ぽっかりと口を開けた木のポスト。薄い色の封筒を一つ一つ丁寧に落とすと、もう先に投函されていたのだろう手紙の上に落ちる、まるで落ち葉がかさなるような、かさりという音が、多分きっと聞こえぬ耳に届いているのだろう。
(聴いてみたい気もする)
分からないけれど。
「先輩。」
「なんだ?」
「有難うございました。」
「ん?」
「お陰さまで、卒業することができました。」
意思疎通方法の問題で恥ずかしいけれどもしっかりと目を見て告げれば、ほんの一瞬驚いた顔をした立花は、すぐに応えることはせずにゆっくりとカフェの中を見回した。
橙色の光が溢れるカフェは先ほどクローズと書かれた札がドアノブに掛けられ、二人以外の人がいない。その光景に何を思っているのか計ることもできずに、少しだけ背の高いその人をじっとみつめる。
「ここは居心地が良かったか?」
しばらく待って告げられた言葉に一瞬ぽかんとして、そうして、いくつもの言葉で表すよりは、と一つ笑って頷いた。
「ここが誰かの居場所になっていれば、なればよいと、常々思っていたが。」
そう思って続けているのは間違いではなかったなと、立花は酷く嬉しそうに笑った。
他にも何か伝えたそうに一度口を開いて、頭(かぶり)を振ると、席に座るようにその日初めて促された。
「いつものでよかったか?」
「甘いのにしてください。先輩お得意の蜂蜜の入ったものがいいです。」
言葉とともにそっとメニューを示せば、その目が柔らかく揺れた。
 
その日を最後に、カフェからは温かい明かりが消え、卒業を待たずに酷く優しい目をした先輩は、海を渡り、遠い国に研究者として旅立っていった。
彼にあてた手紙が届いたかどうか、自分には確かめる術がなかった。
 
 
 











 
立花先輩
 
前略

ご卒業おめでとうございます。
温かい、本当に温かい時間を有難うございました。
暑い季節になりましたら、私もそちらへ参ります。
(もしかしたら、潮江先輩あたりにお聞きになってご存知かもしれないですが)
その時はまた、おいしい珈琲を淹れてください。

その日を楽しみにして

草々
 
久々知兵助
 
 
Fin

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