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花は毒にも薬にも…
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こんにちは。

都々逸シリーズ第四弾、与四郎→(←?)文次郎→留三郎でございます。



以下注意事項となります、お目通しお願い致します。





【注意】

・都々逸シリーズ参の続きのようなもの

・風魔には与四郎の同期生がいるに違いない、という妄想から

 オリキャラが出てきます

・明確なCPはございません

・歯がゆくて気持ち悪い



以上、問題のない方はRead moreよりお進みください。

早く歩いている気など更々ないだろうが如何せんこちらは慣れぬ道で、案内役を買って出て先を歩く背中だけを追っていく。

万に一つもおいていかれる事はないと思うが、常の癖で生い茂る木々の中、目印を覚えていく。

「悪いな、もう少しだ。」

「構わないだぁよ。」

「少しだけ遠回りをしたからな。」

一瞬こちらを向いた眼差しがほんの少し苦しそうに歪み、その歪みを悟られたくはなかったのか目的の場所に着くまで一度もこちらを見ることはなかった。

この場で遠回りした理由なぞ聞けずに、そうかと小さく応えることが精一杯だった。

 

 

【カミツレ 2

 

 

「美味しいって評判だぁよ。」

菓子、特に今回持たされた飴玉に美味しいも美味しくないもないのかもしれないが(如何せん、自分は甘いものがそんなに得意ではない)、あちらに行くなら届けておくれ、と頼まれた小包は、小田原城下で大層人気のあるお店のものだった。

『日持ちしないと、渡せないだぁよ?』

『…馬鹿にしてんの?』

『い、や、してねぇが』

『喜三太にちゃんと渡してね。』

ギリギリギリと此れから遠路西へ向かう同級への態度とは思えぬ表情で、足の小指に集中攻撃を受ける。

(いたがったぁ…)

痣やらなんやらにはならなかったが、地味に響く痛みを思い出しぎゅっと眉根がよる。

心配そうに見上げる喜三太の頭をゆっくりと撫ぜる。

「大丈夫だぁよ。」

ほら、だからさっさと開けてみろと促す。

「わぁ、鈴屋さんの飴だぁ。」

鼈甲色を始め様々に色付けされた飴が黒い器に行儀良く収まっている。

好きか苦手かは別にして、その可愛らしさに見るものの目が奪われる。

(こういうのは好きだろうか)

見かけよりずっと甘いものが好きなあの""は買ってきたならきっと喜んでくれるだろう。

(次来るときは買ってきてやんべ)

困ったように受け取る姿が浮かんで、ほんの少し心が温かくなる。

「美味しいの?」

「うん。いっちばん美味しいよ!!

小さな掌には余る大きさの箱を大事にだいじに両の手で包んでいる。

それを横から覗き込みながら同じ背丈の子どもが問いかける。

(金吾だっけか)

「は組みんなで食べようね。いいですか?」

「構わねぇだよ。あいつも喜ぶだろうしな。」

「わぁ、ありがとうございます」

重なる声はいくつか、数える気もないが元気な声が揃って響く。

本当ならば自分で届けたかっただろう友の顔を思い浮かべて、これはよい土産話しができたなと、胸中で笑う。

「売ったら高く売れるかな。」

「お土産売るとか・・・きりちゃん流石にそれは駄目だよ。」

「あまった、ら?」

「駄目だめ。折角持ってきてもらったんだよ。」

覗き込む子ども達があれやこれやと言う言葉が空に響く。

「みんなで食べたら余らないよ、きっと。」

冷静な声が告げるとどっと笑い声が沸く。己の郷里より大分穏やかな、賑やかな空間に笑みがこぼれるが、そろそろ出なければ間に合わないかと、太陽の位置をそっと確認する。

「あ!与四郎先輩、もう帰っちゃうんですか?」

ほんの僅かな行動に気がついた喜三太の問いかけに、あぁ、ちゃんと成長しているな、とまるで親のような感想を持ったことは秘密だ。

「ゆっくり出来なくてごめんなぁ。次はゆっくりくるだぁよ。」

「楽しみにしてます。」

残念さを隠しもせず、それでも駄々をこねないように笑うその幼い笑顔に満足し、くしゃりと頭を撫で、そうしてくるりと踵を帰した。

また来てくださいねぇ~、と続く声に、ほんわりと心が温かくなる。

 

 

一年の輪から抜け、きちんと出門表にサインするのは面倒だなんだと思いながらも、自然と正面へ向かう足は大分この学園の決まりごとに慣れたとみえる。

(みんなにも会いたかっただよ)

課題のついでに足を伸ばしたというのが正しく、里へ戻るための時間を入れてもそう長居はできない。

彼らに会えば嫌な顔をされない代わりに彼らの
(いっては何だが酷くゆっくりとした)ペースに合わせねばならず、残念ながら食う時間を考えればこちらから探すわけにも行かない。

(残念だぁな)

大抵は一年生たちと戯れていればまるでそこが餌になったかのように誰かしら来るものだが、

今日に限ってそれすらもなく、同じ系統の学園に通っている身からすれば、なにか実習なのだろうとぼんやりと当たりをつける。

(それにこっちの学園長のじっさまはなぁに考えてるかわからんが)

残念だぁ…、

「何がだ?」

「ひぃっ」

「ちょ、お前気がついてなかったのかよ。」

急にかけられた問い掛けに驚き振り向けば、私服姿の文次郎が怪訝そうな顔でこちらをみていた。

「脅かすでねぇ。」

「脅かしてねぇよ。てめぇが勝手に驚いたんだろ?」

そもそも気配なんて消してない、と静かな声が告げる。確かに常ならば驚きはしなかっただろう。

「びっくりしたがぁ。」

「そりゃ悪かったよ。で、なにしてんだ?」

「届け物の帰りさぁ。もう帰るだよ。」

「そうか。」

その言葉がほんの少し淋しそうだとか、なんだとか己に都合のいい解釈して、ほんのすこしならまだいれるさぁ、と笑った。ロスした時間は走り抜ければいいだけの話だ。

「じゃぁ、少し付き合え。」

「おぉ?

「そんな時間かかんねぇよ。」

先に歩き出しながらこちらを向いて、安心しろと笑った顔が酷く嬉しかっただなぞ気付かれぬようにそっと表を伏せた。

(あぁあ、重症だべ)

何が?と悪戯顔で問うつれが居なかったことに安堵した。

今なら間違いなくぼろが出る。

 

 

 

「いつか刺されるよ。」

己の女遊び(この感情を受け入れる間の葛藤だと、告げてはいないが)にふわりと笑う笑みがよく似合う友は眉を潜めながら、声を落とした。

「大丈夫だぁよ。」

「そうは言うけど最近、酷いじゃない。」

においがきついし、帰りも遅い、朝帰りしたらしいじゃない?心配げな表情よりも、ここ最近の素行を的確に指摘され、自然と目を伏せた。

くるくると手馴れた手つきで巻き付けられる包帯の白さが鮮やかに記憶に残る。

「刺されたって手当てなんてしてやらないからね。」

「酷いでねぇか、そげなこと言うでねぇよ…。」

「少し改めてくれたら、手当てくらいしてあげる。」

ふふふと笑いながら、逆の腕だしてと冷たい手が伸ばされる。

つんっと香る薬は大層沁みるもので有名で、一瞬腕を差し出すのを躊躇ってしまう。

(怒ってる)

「あぁ、そうだ。上方にいくんだって?」

「そおだぁよ。相変わらず耳がはやい。」

若干の厭味も気にした風ではなく、あ、そうだと思い出したように土産の催促をされた

「都の方にね、美味しい干菓子があるんだって。」

食べてみたいなぁ、と有無を言わせぬ笑みに、いつもの事ながら否は告げられず渋々と頷いた。

(忍になればいいっぺよ、ほんとに)

人を手に掛けるなんてそんな大それたこと私には出来ません、覚悟が足りませんでした、と進級試験を放棄し、忍装束を返納した際、感情一つ含めず告げていた言葉が浮かぶ。

(だれよりも忍という性が合っていただぁよ。)

穏やかな雰囲気とは異なり、人を殺す術も生かす術もきっちりと身に付け、生きるか死ぬか、助かるか助からぬか、そこらへん迷いのない判断力も、少なくとも風魔の中では誰よりも秀でていた。

「でね、聞いている?」

ペシンと傷の真上で手が跳ねる。痛みに声を上げなかったのは最高学年としてのプライドかそれとも強か響いた痛さの所為かは分かりかねたが

「なんだぁね?」

出した声が思いのほか擦れておらず、心中でほっと息をを吐いた。

「いい加減告げてもいいとおもうけど?お前は意外と臆病だから。」

かけられた言葉に一言も返せずに固まる己を尻目に、かちゃかちゃと陶器のふれあう音を立てながら片付けが進む。

「なにさぁ、いつから…。」

「酷くなった頃からかな。これは何かあるな、って」

「あぁ…。」

「与四郎が私に隠し事するなんて何年早いと思ってんだぁよ。」

からからと笑いながら普段出さぬ里の言葉で気をつけてね、と言う声とひらひら手を振るその笑みが同時に霧散した。

 

 

 

「おい、こっちだ。」

ぼんやりしていた頭上より、声を掛けられ思わず上擦った声がでた。

「お、おぉ。」

「そこ足元悪いから気をつけろよ。連れがいつもけ躓くんだよ。」

数段高くなっている場所から己を示した文次郎は何かを思い出したのだろう、一瞬眉が寄った。

「つれってあんの綺麗な顔した…。」

「あ?そうだが?」

「け躓くとか、驚きだぁ。」

「あいつをどうみているかは知らねぇが、意外と足元あぶねぇよ。」

なんもないところで、転ぶしなぁ。

続く声が集団でいるときと異なり酷く優しげで、そぉか、と応える己の中をじわりじわりと侵食する。

関係図を描けば綺麗に円が作れそうな、均等に重なりあい影響しあっているように見えるあの六人の中で、他よりも仲がよさそうに見える二人。

「意外」

「みんなそういうな。不器用さを隠しているだけだぜ。」

なにもかもがお見通しというような、関係、否、物言いに苛々とした感情が募る。

「ついたぞ」

「………すげぇな。」

「とっておきだ」

時の移ろいをどれだけ見てきたのか大木を中心に広がる桜。

淡く青い空と薄紅色が言い尽くせぬ美しさを演出している。

(確かにとっておきだぁ)

「見せたかったんだ。」

「あ、あぁ、ありがとうな。」

相変わらず先行く背中の主は、誰に聞かせる訳でなく静かな声で、そう呟いた。

無視してもよかったが、聞かせぬつもりのない声音はその反対、まるでここにはいない誰かを連想させる。

ここに来る前に名の出た仙蔵は候補から外れるとして、はて、誰だろうかと持ちえる情報を駆使して答えを弾き出す。

(嗚呼…そういうことかぁ)

隣にいる同室でもなく、意外と仲のよい伊作でもなく、お互い胸倉を掴み合う

「留に見せたかっただか?代わりが俺で悪かっただ」

小さく問い掛け、自然と納得しながら零れた声は他の音とは異なり花びらにすいこまれることなく、低く響いた。

「何言って…」

しっかりと届いてしまったらしい言葉は、相手を酷く驚かせたようで、一瞬見開かれぐっと寄せられた眉がそれ以上の言葉を無言の内に撥ね退ける。

「いや、なんでもないだぁよ。」

先から気まぐれに吹く風が、薄紅の幕を張る。

これだけ散れば花弁は残らないような気もするのだが、周りを囲む桜は変わらず薄紅を纏うたままだ。

「代わりじゃねぇよ。」

「なんだ?」

舞い散る薄紅には視界を遮りそうして、音も遮る。

「お            だよ。」

辛うじて聞き取れた音を繋げると大層己に都合のよい解釈ができ、咲き誇る薄紅よりも、広がる蒼よりも、目の前-実は意外と距離が空いていた-の背中に目がいく。

「文じ…」

「あいつの代わりはいねぇよ。あいつはあいつ以外のなんでもない。」

こちらを向かぬ背の主は風に逆らうように背けていた顔をこちらに向けて、笑えぬ顔で笑っていた。

(笑うな)

「だからさ、」

(笑う、な)

己以外の話しをしているからではない。

そうでないと十割言い切れる訳ではないが、語られる思いよりも、無理に笑う、本人に無理をしている気は欠片もないだろうが、その顔をみたくはない。

「俺は」

「俺は案内してもらっで、嬉しかっただよ。一人じゃこれねぇもんさ。」

ひた隠しにしてきただろう言葉を、思いを何でもないように問い掛けた己ができるフォローでないことは重々に承知している。

しかし、引き金を引いた問いは思いのほか深く、深く文次郎に届いたらしい。

「与四…」

「意味が分からながったらいいけんど」

「…」

「ちゅくちょくは来れねぇけどさ、来たときはお前に思いっきり付き合ってやるだよ」

「…」

「だからぁよ、そんっな淋しそうな目やめるだよ。」

「お前…」

「あ?んー、留こもすきだぁよ。けどな、文次郎が…」

笑っているほうがいいだぁよ。

告げた言葉に、驚き固まった彼の中で間違いなく彼の処理能力のキャパを越えたことが手に取るように分かった。

目を見張ったその隙に一歩あけた状態まで距離を縮める。

「笑う門には福来たる、だぁよ。」

先のように笑えと願いながら文次郎の口角を片手でくいっと上げてみせる。

咄嗟にその手を払われなったのは驚きだが、まぁ、始めの一歩にしては上出来だろうとほくそ笑む。

(俺も大概、嫌な質(たち)をしている)

まだ驚いたままの文次郎から手を離し、

「忍が驚きすぎだぁよ。」

低い声で先に己が言われた言葉を返し笑えば、そんなことはないと、睨まれる。

己で様々吹っかけておきながら、本人が思うより大分ころころと変わる表情が戻り、ほっと胸を撫で下ろす。

「どこいくさ?」

「こっちきてみろよ。」

表情と主を読まれたせいか、それとも他の理由があるのか分からないが足早に桜並木を進む背を慌てて追う。

!?

「仙蔵が見つけた。こうやって見るのが一番だ。綺麗だろう?」

ためらうことなくゴロンと寝転がり、ほら早くしろよ、と促されて、恐る恐る隣に寝転がる。

春も早い時期だが柔らかな草に覆われるそこは不快感がない。

「おぉ!!すごいだぁ」

「そりゃぁよかったよ。」

 

薄紅から青がのぞき、青に薄紅に翳む。

風魔の里に似たようなところはあるかと考えながら、残念ながら己の行動範囲にはないことを確認する。

 

「来年はみんなで来たいだぁね」

「そうだな…。」

 

なんの気なしに告げた言葉に、本人が思っているよりずっと不機嫌そうな色の混ざる返事が戻り、気付かれぬようににんまりと笑った。

 

Fin





お付き合いくださりまして、有難うございました。



花崎

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