花は毒にも薬にも…
おはようございます。
都々逸シリーズ第三弾、六いでございます。
以下注意事項となります、お目通しお願い致します。
【注意】
・花崎は大分六いに夢を見ている
※二人をCPにはしておりません
・かっくいい二人は出てきません
・どちらかと言うと文次郎のお話し
以上、問題のない方はRead moreよりお進みください。
都々逸シリーズ第三弾、六いでございます。
以下注意事項となります、お目通しお願い致します。
【注意】
・花崎は大分六いに夢を見ている
※二人をCPにはしておりません
・かっくいい二人は出てきません
・どちらかと言うと文次郎のお話し
以上、問題のない方はRead moreよりお進みください。
白い手がゆっくりと開くその本を己が手に取る日が来るなぞ考えたこともなかった。
「いいものだろう?」
落ち着いた声音が手に持つ本を認めて、穏やかに告げた。
(お前はどういうときに読んだんだ)
そう問うことが出来なかったのは、答えをわかっていたからだ。
じわりじわりと胸のうちを蝕む仄暗い感情から静かに目をそらした。-
【カモツレ】
「おぉ、丁度満開だな。」
先を歩く背中が淡く青い空に薄紅が映えるのを認めて、嬉しそうに声を上げる。
「綺麗だな。」
「おや、貴様にも花を愛でるだけの感性はあったのか。」
くるりと振り返ったその顔は普段の含みある笑みではなく、久しく見ていない無邪気な笑みでつられて口角があがる。
(こうしてっと少年っぽいよなぁ)
自習だと告げられ早々に教室から抜け出して、向かう先は1年の頃に見つけた桜の古い大木の元。
共に見つけ、示し合わせたわけではないのだが、花が咲きそろう頃、綺麗に笑う同室者とはよくここで過ごす。
共に見つけ、示し合わせたわけではないのだが、花が咲きそろう頃、綺麗に笑う同室者とはよくここで過ごす。
「何か持ってきていないのか。」
手ぶらなこちらを見咎めて、問う声も久しく聞いていなかった幼かった頃の彼と重なる。
あの頃は今より幾分か真面目な気質の方が多く表に出ていて
(それでいて今より大分排他的だった)
あの日も好きなところで好きなことを行うという、意味があるのかないのか分からない課題の元、
穏やかに晴れた春の日に小難しい本を持っていたのをぼんやりと思い出す。
(それでいて今より大分排他的だった)
あの日も好きなところで好きなことを行うという、意味があるのかないのか分からない課題の元、
穏やかに晴れた春の日に小難しい本を持っていたのをぼんやりと思い出す。
「花を愛でるのには酒だったか?」
「授業中だろう、ばか者。」
「授業中だろう、ばか者。」
からからと笑う手に相変わらずな本-どうやら今回はお気に入りの兵法の応用集らしい-を認め、
あぁ、そうだな、と気のない返事をし、日が良くあたるほうへくるりと回る。
あぁ、そうだな、と気のない返事をし、日が良くあたるほうへくるりと回る。
「そちらにいるのか?」
「本もなんもよまねぇし、あったけぇほうがいい。」
「そうか。この前の本は持ってこなかったのか?」
問う声と小さくかさりと本の頁をめくる音だけが酷く大きく耳に響いた。
「部屋にあるな。」
「残念だな。」
「あ?」
「桜咲く下で読めばお前の感性とていつもよりは幾分反応がいいだろうに。」
「馬鹿にしてんのか?」
「いいや、消化しきれずにうだうだしているお前を見るのに飽きただけだ。」
何に対してだとか、どうしてだとか、一度も表立って問われたことのない内面を見透かして、
事実多分にきちんと理解してそう声をかけられることは一度や二度ではない。
事実多分にきちんと理解してそう声をかけられることは一度や二度ではない。
(話してねぇよなぁ)
記憶を辿ってもそのことについて問われたことも、自分から話したこともない。
話せるような内容ではないし、残念ながら、事の顛末を聞いてくれと頼めるような性分でもない。
「お前の話など些細な顛末はもとより大枠とて聞こうとは思わんが」
「…」
「誰だって、何度かはあるだろう。ないほうが珍しい。」
「…」
「何だ、その目は。私にだって一度や二度くらいあるぞ。」
「お前が、か?」
お前が望まなくったって、より取り見取りじゃねぇのかよ、と続けそうになり、周りが思うよりも大分人との関係に対して臆病であることを思い出す。
「悪いか?」
眉を顰めて、言えるわけがないだろう、だとか、なんだとかイメージと乖離した言葉が続く。
「悪かぁねぇけどよ。」
如何せん印象と違うんだと、こちらは心の中で言い返す。
一言口にしてしまえばやっと保っている一線が切れることは想像に容易くなく、
残念ならがこちらとして切れることも壊れることも何一つ望んではいない。
一言口にしてしまえばやっと保っている一線が切れることは想像に容易くなく、
残念ならがこちらとして切れることも壊れることも何一つ望んではいない。
「何か言いたげだな。」
「何でもねぇよ。それよりそれ、読まなくていいのかよ。」
寝転がった体勢のまま視線だけで本を示せば、まだ期限は先だと笑う。
「お前こそ昼に寝ていたほうがいいんじゃないか?」
「あ?」
「委員会はないだろうがどうせろ組と鍛錬に行くんだろう?」
睡眠削り馬鹿の一つ覚えのようにと、からからと笑う声が届く。
「お前なぁ。」
「何、お前のからだの心配を一応しているだけだ。」
「悪いな、」
「だから」
さっさと寝てしまえと言う言葉と本を開く音が同時に聞こえた。
「わるいな。」
己の髪に舞い降りた桜の花びらを取り除く酷く優しげな手の主を見つめて、ゆるゆると微笑んだその顔は、長く共にいても見たことがないほど穏やかで、そうして酷く幸せそうだった。
(何で今起きたかな)
読む気はないが、日々の癖で声の聞こえぬ代わりに言の葉を紡ぐ唇を目が自然と追いかける。
六年友にいた級友達とは実習含め、矢羽音はもちろん読唇で意思のやり取りをしているから当たり前といえば当たり前なのだが、
こんなときにすらその力を発揮することに苛々とした感情が募る。
こんなときにすらその力を発揮することに苛々とした感情が募る。
読まなければいい、見なければいい、ほかの事を考えていればいい、
思えば思うほど意識は集中して離れたところで交わされる会話がまるですぐそこで交わされているように己に届く。
思えば思うほど意識は集中して離れたところで交わされる会話がまるですぐそこで交わされているように己に届く。
(嗚呼…)
じわりじわりと広がる感情に眉が寄る。
「見なければいいだろう。」
気配なく伸ばされた白い掌が己の両目から光を奪い、言葉より大分柔らかい声音が耳に届く。
「どこまで己を追い詰めるのが好きなんだ、貴様は。」
呆れた声音はそれでも己を見捨てることをせずにそのまま目に入るだろう画を奪い、
そうしていつになったら諦めが着くのだろうな、と楽しげに笑った。
そうしていつになったら諦めが着くのだろうな、と楽しげに笑った。
「あのよ、」
「なんだ?」
「お前なら…」
「お前なら?阿呆、まだ寝ぼけているのか」
言葉にせずに飲み込んだことばを、残念ながら汲み取った仙蔵は楽しそうな笑みを消し、変わりに眉根を寄せた。
不機嫌なわけではなく呆れている故の表情だと言うことは残念ながら経験から理解した。
不機嫌なわけではなく呆れている故の表情だと言うことは残念ながら経験から理解した。
「忘れてくれ」
「いわれずとも。」
分かっていると続く声、に安堵した。
「さて、気付けば昼休みも終っているな。」
教室に戻るぞ、とその手の主が静かに本を閉じる音がした。
(悪いことをした)
そういうつもりなど欠片もないことは分かるが、告げられた言葉のもつ意味に、
すまんと素直に言えるわけもなく、坂を下り始めている背中を追った。
すまんと素直に言えるわけもなく、坂を下り始めている背中を追った。
鍛練に誘いにきた小平太に断りを入れ、その背を見送る。
「明日はいこうな!」
威勢の良い声に己はなんと答えたか、つい先ほどのやりとりがきちんと思い出せない。
(疲れたな)
重力に逆らわず倒れこんだ板の間に触れたそばからじわりと冷気に抱き込まれた。
(冷たいな…)
目を閉じれば女々しいと思いながらも昼間にみたやり取りが思い出される。
いつからだか、気付いたときには目で追っていて、疼く痛みに、幾度もまさかな、疲れているだけだと自分自身に言い聞か続けた。
認めたくなく、男女構わず懸想されることが多い仙蔵を目で追ってみたりもしたが、
やはり彼には-誰よりも信頼をしているが-そういう気持ちは露も持たなかった。
やはり彼には-誰よりも信頼をしているが-そういう気持ちは露も持たなかった。
幾許かの時を要したが最終的には、なんだかんだはっきりしない、
ぼんやりと霞のかかった頭で、あぁ、こいつが好きなのだと、理解した。
ぼんやりと霞のかかった頭で、あぁ、こいつが好きなのだと、理解した。
結果的には自覚して、ほんの少しの時間を得てすぐにそれが片恋であることを思いしらされた。
思いを知らせていぬ以上、それ以前にあれが己のほうを向いているなぞ欠片も思っていなかったが、
それでも、心のどこかこちらの思いに気付いて、出来るならと思ってしまうのは、仕方のない感情なのだろう。
思いを知らせていぬ以上、それ以前にあれが己のほうを向いているなぞ欠片も思っていなかったが、
それでも、心のどこかこちらの思いに気付いて、出来るならと思ってしまうのは、仕方のない感情なのだろう。
ほんの少しだけ開いている戸の外に煌々と輝く月を見つける。
(鍛錬、しにくい夜だな)
思い通りにいかぬ思いなど、その顛末なぞ、思い出したくない、考えたくないと、
思考から哀しみや寂しさを無理に追い立てて、
でた思いが鍛練で我ながら色事にどれだけ無関心、を装っていたかが窺い知れる。
思い通りにいかぬ思いなど、その顛末なぞ、思い出したくない、考えたくないと、
思考から哀しみや寂しさを無理に追い立てて、
でた思いが鍛練で我ながら色事にどれだけ無関心、を装っていたかが窺い知れる。
(そりゃ、仙蔵じゃなくても呆れるな)
はは、くだらねぇな…と自嘲気味にもれた声に返事はなかった。
「風邪をひくだろうが」
聞き慣れた声の主が空気を動かし、部屋が一段と寒さをはらんだ。
「帰ったのか。」
「気付かぬほど思考に溺れていたか。
ひやりとした夜の空気の中、馴れた香のする上着が一枚ふわりと肩にかかる。
働かぬ頭をめぐらせれば、湯上りだろう仙蔵がこちらをみて笑っていた。
「いや。」
「あひ思はでうつろふ色を見るものを 花に知られぬながめするかな」
「…」
「まぁ、そういうことの方が多いだろう。」
「ありがとうな」
こちらに背を向け座る背中に小さく呟けば、常と変わらずぬ声が、なにお互い様さ、と静かに告げた。
Fin?
六いは何より大好きなのですが、
思うとおり書けず…orz
おつき合い頂きまして、有難うございました。
都々逸 「戀(こい)という字を分析すれば 糸し糸しと言う心」
六いは何より大好きなのですが、
思うとおり書けず…orz
おつき合い頂きまして、有難うございました。
都々逸 「戀(こい)という字を分析すれば 糸し糸しと言う心」
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