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花は毒にも薬にも…
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こんにちは、花崎です。

今回はCPなしのお話で、四いを中心とした四年生のお話。







◆注意事項◆

花崎は四いの関係と学級五年生に夢を見すぎている ※not CP

シリアスな表現があちこちに散らばっている

綾部が滝を大好き ※not Cp?



以上、矛盾に気づかぬふりができる方は「Read more」よりお進み下さい。





からりと、部屋の戸を開けると、思っていたよりも涼しい空気が身体を包む。

そういえば、もうすぐ夏祭りだな、と思いながら廊下に出る。

足裏が触れた廊下は漂う空気よりもずっと、ひんやりと冷たかった。



 (あぁ、星が綺麗だ)



 瞳に写る猫の爪のような形で濃紺の空に浮かぶ月はまるでギリギリでここに立つ己のようだ、と誰に聞かれた訳ではないのに一人ごちる。

闇夜までもいかないもののそれなりに昏い夜。

学園のあちこちで夜の鍛錬に励む気配がする。

きっとあれも今日はどかに掘った穴、もしくは掘り続けている穴にでもいるんだろう。

そう思いながら、思い当たるあれの「お気に入りの土」がある場所を順に視て回る。

第二用具倉庫の裏、六年長屋の近く、競合区域の東側、体育委員会室(あぁ、片付けていなかった)の前、作法委員会室の近く…。

ひたひたと冷たい廊下に己の足音が響く。

見つけたら、部屋につれて帰らなければならない。

今はまだ少し昼間の暑い空気が残っているとはいえ、夜明けが近づけば近づくほど気温が下がる。

(夜、外にいると風邪を引くとあれほどいっていただろう)

もう何年も同室のあれは、人の話など半分ほどしか聞いていない。

聞いていないけれども、己がおつかいで外に出ている間は比較的よく聞いていたように思う。

だからこそ、今夜は部屋にいなかったことが不思議だった。

(お前が風邪を引いたら誰が面倒を見るんだ。誰が。)



 



【おかえりなさい】



 



かたり、と部屋の戸が開く音を耳が拾い、滝夜叉丸は静かに本を閉じ振り返った。

その音に気付いた同室者と目が合い、言葉以外の方法でその行動を嗜める。

「滝ちゃんじゃないから、大丈夫だよ。」

「なにがだ。」

「私は滝ちゃんより体力あるもの。風邪なんかひかないよ。」

「あぁ、そうかそうか。じゃぁ、お前が風邪を引いても私は看病一つしないからな。」

闇夜にまぎれて部屋を出ようと後ろを向いた背中へ声を掛ければ、生意気そうに笑いながらそう返ってきた。

(といってもあれが生意気そうに笑うのなんぞ、私や立花先輩くらいしか知らないだろう)

その先輩も桜の咲く季節の前に、この学び舎を去った。

「滝ちゃん。」

「なんだ。」

「滝ちゃん。」

「だから、なんだ!! 」

周りの部屋を気にしながら語尾を強めれば「滝ちゃん。」と再度名を呼ばれた。

「なんだ。言わないと分からないだろう。」

「看病してよ。」

至極不満そうな顔で、拗ねたような言葉が耳に届く。

ならば言うことを聞きやがれと委員会張りの怒鳴り声を上げそうになり、ひとつ静かに息を吸った。

「ならば、今日はやめておけ。明日曇りだときいた。夜明け頃冷える。」

「大丈夫だよ。」

言葉の裏にある看病する気があるという思いを汲み取ったか、先とは打って変わって酷く嬉しそうに笑顔が戻る。

「だけど、今日は滝ちゃんの言うことを聞いてあげる。」

「そうしろ。」

鍬を置き、静かに閉められる部屋の戸の音がいやに酷く響いた。



 



「喜八郎。」

ある日のやり取り思い出しながら、ほんの数ヶ月前まで己たちが住んでいた長屋の前の地面へ声を掛ける。

さんざ、学園内を歩き回ってもその姿を見つけられなかった。

あるいは裏山まで足を伸ばしているのかとも思いながらも、最後にとその廊下に立つ。

気配はしない。

だから居ないことなぞ分かってはいるが、再度静かにその名を呼んだ。

その姿をまだ見つけてはいないけれど、ここ数年で呼びなれたその言葉をつむぐたび、あぁ、帰ってきたのだと酷く温かい気持ちが広がった。



 



「喜八郎。」

呼ばれた声に振り返ると、夜着に一枚上着を羽織った姿の三木が静かに立っていた。

「早く戻れ。」

ぶっきらぼうに言うその言葉と、言葉にならない言葉で心配しているという気持ちがじんわりと届く。

「もう少し。」

「そうか。」

「三木は?」

「これから帳簿の最後の確認だ。左門が戻ってきたからな。」

すこし諦めたような言葉が耳に届く。

「そう。」

無理しないでね、と問いかければ、潮江先輩ほどはがんばらないさ、とからからと笑う声が届く。

「早くもどれよ。」

「うん。」

立ち上がる気配1つ見せない喜八郎に半ば諦めたようなため息を吐き、

三木ヱ門はいつからか座らなければ己より高い位置にある頭を静かに撫でた。

撫ぜる三木ヱ門の手にゆっくりと手を重ねる。

(あったかい)

「喜八郎。」

「うん。」

「早くもどれ。明日も早いぞ。」

ぎゅっと握られたままのその手を無理に引き抜くことをせず、三木ヱ門は握ってきた手をにもう片手を重ねた。





「おかえり、滝夜叉丸。」

「おや、鉢屋先輩ですか。」

じっと四年い組の長屋の前で動けずにいた己に掛けられる声に振り向けば、一つ上の先輩が二人、静かに壁に寄りかかっていた。

「尾浜先輩も。ただいま戻りました。」

ゆっくりと顔に笑みを広げれば、底知れぬ思いを抱いた笑みが返る。

「どうだった?」

おつかいの中身全ては知らないのだろうが、現時点の生徒の中で何よりも裏の情報に通じているふたりは己がどの様な場所におつかいに行っていたのか合点がいったのだろう、少し難しそうな表情で問いかける。

 

「どう…と申されましても。そうですね。」

己がいた場所を静かに思い出す。

阿鼻叫喚、生きる為に生き残る為に人がぶつかるという状況と当に越し、恐ろしいほどの静けさを湛えていた場所。あそこは、人が生きる場所ではなく・・・

「人が死ねぬ処でした。」

「死ぬ処ではなく?」

「えぇ、死ねぬ処でした。」

幾ら望もうとも来ない援軍、その援軍を再度求める使者すらもだせない。

枯渇していく食料、毒を混ぜられた井戸。

闇にまぎれてその城を抜け出しても、待っているのは手だれの忍隊。

待っているのはじわじわとまるで紙に染み込む墨のように己に辿りつく死神の腕だけ。

「大変だったね。」

その様を想像したのだろう、知らず知らずに手で口を覆う尾浜はそう言った。

「そうですね。まぁ、でも私ですから。」

控えめに言って笑えば、眉根を寄せていた鉢屋がそうだな、と静かな声で答えた。



なにもなくなったその城は結局何も出来ぬまま死に絶え、主も最後は自害して果てた。



 「報告は?」

 

「まだです。帰ってきたら、あの馬鹿が部屋にいなかったので。」

夜半冷え始めた空気が肌に触れる。

探しに来たのです、と続ければ、今までの空気を全て捨てたようにくすくすくすと尾浜が笑う。

「あぁ、綾部だっけ?」

「そうです。まったく…風邪を引くといっていたのに。」

「探してやろうか?」

「鉢屋先輩が、ですか?」

「なんだ、不満か?」

「不満ではないですが…。」

「報告があるんだろう?」

「そう、ですね。」

おつかいから戻れば報告にあがるのが順序だ。

その順序を無視し、同室探しをしているのを最高学年にあがった彼らが知っていながらの無視はできないだろう。

(ご自分はなさるのにね)

そういってしまえば折角の好意が無になってしまうとわかっているので、静かに頷いた。

その頷きを確認し、静かにきびすを返す鉢屋に静かに頭を下げる。あれで結構面倒見がいいことを知っている。

「じゃぁ、ね。平。早く報告して休みなよ?」

「はい。ありがとうございます。あ、尾浜先輩、一つ頼まれてもらえませんか?」

鉢屋を追う為に歩き出した尾浜を呼びとめ、振り返ったそのまなざしを静かに避け、一言告げた。



 



 「綾ちゃん。」

名を呼ばれるその声と同時にあたたかい上着が肩に掛けられる。

「タカ丸さん。」

「三木ちゃんから聞いたよ。月がきれいでもこの時間までいるのは頂けないかな~。」

ふふふ、と笑いながらタカ丸は空を見上げた。

夜空を切り裂くようにかかる月。

満月よりは暗いとはいえ、仕事をするにはあまり向いていない夜。

「その格好でも寒いと思ったら戻っておいで。」

 

「わかりました。」

 

ありがとうございます、という喜八郎の小さな呟きをきちんと拾ってタカ丸は来たときよりもゆっくりとした足取りで長屋へ向かう。

 

じっと蹲った背が見えなくなるギリギリで振り向いて、一つため息を吐いた。

 

「お願いしますね。」

 

「任せておけ。」

 

暗闇から現われすれ違った見知った顔に告げれば、冷たい声が一言鼓膜に届いた。



 



見慣れた足が視界に移り、喜八郎はほっとしたように息を吐き、ゆっくりと顔をあげた。

 

「滝ちゃん。」

 

「おまえは…部屋にいろといっただろう。」

 

「おかえり。」

 

がばっと抱きつく喜八郎のその身体をしっかりと抱き閉めて、一つ息を吐いた。

 

「ただいま。」

 

身体が冷えている、とそう呟けば、滝ちゃんもね、と酷く安心した顔で笑った。

 

(おや、まぁ…)

 

「それ以上冷えたら、風邪を引きますよ。夏の始めは朝、寒いんです。しらないのですか?」

 

鉢屋先輩、と先とは打って変わった感情の凪いだ瞳がひたとこちらを見つめる。

 

その言葉とともに掛けられた上着は先ほどタカ丸が喜八郎のためにと持ってきたものだろう。

 

「綾部…。」

 

「私が滝ちゃんを間違える訳ないじゃないですか。」

 

すっとその身体が離れ、ひたりと学園から外に続く道へその目が向けられる。

 

「けれど、」

 

宵闇のその先に喜八郎が待ちわびる足音はしない。

 

どんなに耳を済ませようと目を凝らそうとその姿を探せない。

 

「ありがとうございます。」

 

「綾部。」

 

「これで部屋に帰れます。」



 



怖かった。ただ怖かった。

 

報せは宵闇が迫るより早く、空が茜に変わり始めた頃に届いた。

 

多分、届いてすぐに己の下に届けられたのだろう、届けてくれた教師ですらまだ少し疑っているような、信じたくないようなそんな雰囲気だった。

 

あの時間はまだ委員会で下級生を見ていて、一人ではなかった。独りでは。



「ありがとうございました。」

 

「あぁ。」



本当ならばきちんと礼を言ってもどらなければならないのだろうけれども、皆が必死に向けてくれる優しさにとうとう涙が零れそうで、静かにきびすを返した。

 

その後ろ、鉢屋の気配がふっと消えた。



 

 

三木ヱ門が迎えに来てくれても

 

(委員会がないのも、四年ろ組が課外実習なのもしっている)

 

タカ丸が本当は無理やり迎えに来たことも

 

(だけれどもこの場に一度はおいていってくれたことも知っている)

 

だれも彼も心配してくれているのは知っていた。

 

(だって驚くような速さで話しが駆け巡っていた)

 

共に報せを聞いた藤内が今日は一緒にいましょうか?と声を掛けてくれた。

 

(呆然として何も言葉に出来なかったもの)

 

周りに心配を掛けてはいけないよ。お前は一人でつっぱしるからという卒業した先輩の言葉が思い出される。



(仕方ないじゃないか。だって、だって)





 

『喜八郎。私がいない間、夜を外で過ごすんじゃないぞ。風邪を引くからな。ちゃんと授業に出るんだぞ。ご飯もちゃんと食べるんだぞ。聞いているのか?』

 

『聞いているよ。滝ちゃん心配しすぎ。』

 

『お前は…。じゃぁ、行ってくるからな。』

 

『戻りは?』

 

『さぁ、私だからな7日もあれば帰ってこれるさ。』

 

『いってらっしゃい。』

 

『あぁ。』



 

 

「滝ちゃん、もう10日経ったよ…。」

 

暗く静かな部屋の戸を開けて、そうしてはじめて声を上げて泣いた。



 

fin



 

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