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花は毒にも薬にも…
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花崎です。
先日「ひととせまた。」というタイトルでUPしていたお話しのリメイク版です。
どうっしても気に入らなくて、現パロで書き直しました。
(というよりも、以前まったく別ジャンルで書いた話と「ひととせまた」をつないだ感じです)



◆注意事項◆
・現パロ
・伊鉢(おやまぁ)
・リメイク番なのに雷蔵でてこない
・お約束のシリアス満開orz
・梅雨の季節のお話(今は真冬だ)



以上問題のない方は「Read more」よりおすすみください。
長いので「壱」「弐」にわけました。

 


しとしとと細かい雨が絶えずに降り続く。
傘を差しても、細かい雨によってしっとりと服が濡れる。
差す意味は無いような気がするけれど
『風邪、引きますよ。』
微笑(わら)いながらビニール傘を差し出した陰が浮かぶ。
声は誰だか分かるのだけれど。
素直に受け取るとそれでいいと、微笑む雰囲気。
薄紫や青、緑が彩る石畳。



[ 天音-amaoto- ]



ブラインドから覗く空からは、細かい雨がしとしとと降っていた。
あまり厚い雨雲ではないのか外は明るい。
肩まで掛けられたタオルケットが素肌の上を滑る。
ジーパン一枚にはまだ少し寒い気候。
掛けたのはきっと先輩だろう。


「起きた?」
「伊作先輩?」
ドアから顔だけ出した伊作はぺたぺたとフローリングに足音を立てながらベッドに近寄る。
「寝惚けてる?起きたなら用意してね。」
寝惚け眼の三郎の目には黒い髪の間から覗くロングピアスが見えた。
シルバーの、いつからか着けているもの。
「出掛けるんですか?外雨降って…」
「うん、でも紫陽花見にいくならこんな日がよくない?」
数日前、伊作は現実逃避という名の散歩中に伊紫陽花が咲く道を見つけたと、今度一緒に見に行こう?といっていたのを思い出す。
外は雨、紫陽花には丁度いい空模様。
出かけるのには少し不都合がありそうだけれど。
「行きたくないなら、今日はのんびり家にいる?」
「今から用意するんで時間かかりますよ?」
行かなくても、と言う伊作が残念そうで正直あまり出掛けたくないけれど三郎は冷たい床に裸足で降りた。
まだ半分眠っている部分がどうにも覚醒せずに、2・3回ぶんぶんと頭を振っても醒めずに仕方ないと歩き出す。
ものは少ないけれど床に色々広がっているこの部屋は覚醒していないで歩くと知らぬうちに痣が出来る。
「砂糖入れる?」
キッチンから問う声が三郎に届く。
「いい。」
なんら変わらない日常。
変わらなすぎて少し退屈なような、違うような。多分きっと違う。

 

洗面台に飾り付けてあるモノクロの写真。
一枚、一枚、伊作が撮ってはアレンジをしているものだが気づけば増えているし、減っている。ぼんやりした頭で数を数えながら見慣れぬ一枚に目を留める。
紫陽花の花、まだ咲き揃わない花が雨に濡れている。
(紫陽花ね…)
「三郎、パンか何か食べる?」
「いる。」
思ったよりも綺麗に撮れているそれが酷く気に入って三郎はそれを洗面台から外しリビングへ戻る。
「これ、欲しいんだけど。」
「紫陽花?本物見に行くんだから…、でも欲しいならあげるよ。」
モノクロの中で薄く残る紫が映えすぎず、溶け込みすぎず。
どこか今の自分と被っているような変な錯覚を覚えた。
右にも左にも行けぬままに、その場に留まっている自分のようで。



「先輩。」
「何?」
数段上を歩いている伊作を呼んで立ち止まる。
ビニール傘から、雫が飛ぶ。
それは数段下にいる三郎までは当たり前に届かずにその前で石段に落ちる。
酷く細かい雨で傘なぞ役立たないような気がする。
「傘、差さなくて大丈夫そうですよ。」
「風邪引くから、俺は引いても良いけど三郎引くと長いから、さしてなさい?」
傘を畳もうとした三郎をやんわりと止めて伊作は自分の傘を閉じる。
「風邪、引いても知りませんからね。」
 
そう呆れたように言って、空を見上げた。
差した傘のビニールを透かしてみる空はただでさえ曇っている上に、水滴とビニールでぼやけて歪む。
「やっぱり、紫陽花は雨の中で咲いているのが一番だね。」
お気に入りの花株を見つけたのか石段を登るのを止めて伊作はそう言う。
正直少し紫が濃いくらいで他の花とは変わらないのだがと、それを少し客観的に見ながら三郎は思う。
確かに綺麗だとは思うけれど、どこか釈然としない。
ただの紫陽花のはずなのに。
なんとなくぼんやりと眺めていた三郎の目の前に白い煙が通る。
「こういうとこって禁煙じゃないんですか?」
「知らない。この前注意されなかったし、良いんじゃない?」
「注意って…ここお寺ですよ。」
「正解。」
「何やってるんですか…。」
仏教徒でもなんでもないけれど、一般的にこんなところで吸い始めはしないだろう。
その上、細かい雨が降っていて、傘も差さないこの状態で。
言っても煙草の火を消すしぐさをしない人にそっと傘を傾ける。
「なに?」
「火消えるから。」
「ふふ、相合傘みたいだね。」
ふわっと煙が傘を伝って空へ昇る。(相合傘ね・・・)
あぁ、これがこの人の一番したかったことなのだと三郎は理解した。
紫陽花が綺麗だから雨の日に出かけよう。
紫陽花が見たいのも本当、めったにしない相合傘がしたいのも本当、だけれども伊作がその為だけにわざわざここまで出かけるだろうか
(よく分からない人)
「傘差したらどうですか?」
「別に良いでしょ、こんな雨の中出かけてくる物好きなんてそういないだろうし。」
伊作の指先から広がった香りは酷く不明瞭で、遠くの見えない今の状況に似ていた。

 
 

To be ...

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