花は毒にも薬にも…
前回あげた「都忘れ」の第二話です。
【注意事項】
卒業して数年経っている。
勘ちゃんは実家を継ぐべく若旦那している。
兵助と勘ちゃんはえらい仲良し(Not CP)
花崎は伍いの関係にとんでもなく夢みている。
以上が許せた方のみお進みください。
既にR/K/R/Nでもなんでもない話になっていますorz
【注意事項】
卒業して数年経っている。
勘ちゃんは実家を継ぐべく若旦那している。
兵助と勘ちゃんはえらい仲良し(Not CP)
花崎は伍いの関係にとんでもなく夢みている。
以上が許せた方のみお進みください。
既にR/K/R/Nでもなんでもない話になっていますorz
「若旦那。」
「勘ちゃん。」
裏木戸に面した部屋で、待っていた人を連れた店のものが、ゆっくりと木戸を開け、こちらに微笑んで見せた。
「お帰り。そうして、ひさしぶり。」
常と変わらない様に声をかければ、兵助はすこしだけ笑った。
「お前は下がっていいよ。ありがとうね。見つけてくれて。」
兵助の隣に立つ店のものに下がるよう告げて、勘右衛門は庭に下りた。
『若旦那様。』
『なんだい?』
『久々知様が・・・表通りで泣いていて。』
『久々知様が・・・表通りで泣いていて。』
『は?』
『大橋のたもとの甘味処でお会いしまして、梅さんが共に帰ってくると。』
『あぁ。じゃぁ、迎えはいいか、梅がいるんだね?』
『はい。』
驚きの知らせを受けたのはほんの半刻ほど前。
近づいてとった手は冷たく、綺麗に施されている化粧の間、涙の跡が伝っていた。
「何かあったの?」
「・・・。」
「温かいものを入れてくるから、待っていて。」
少し裕福な町娘に姿を変えた兵助は勘右衛門のその言葉に、困ったように笑ってそして、頷いた。
(尾浜屋の若旦那には思い人がいるか)
実しやかに流れる噂を思い出し、勘右衛門は目の前に立つ兵助の頭を優しく撫ぜた。
春先の温かな陽が長いまつげの影を造る。
もうあの学園を離れ幾度かの春が過ぎているが、どうにも変わらないものだと勘右衛門はその手を引きながら縁にあがる。
「離れにいてね。」
「ありがとう。」
「気にしないで。」
【 都忘れ 弐 】
「あ・・・。」
学園を卒業してから1つの拠点としているかつての同室の家へ向かう雑踏の中、兵助は眉を顰めた。
今回の忍務にと誂えた草履の鼻緒が無残にも切れた。
(幸先悪いな)
じっと見つめる先には濃い紫の鼻緒。
(せっかく勘ちゃんに褒めてもらおうと選んだのに)
どうやら、己はどうも小物と着物の相性が悪いらしい。
勘右衛門は女装する兵助を見てはため息を吐き、ちゃきちゃきと直していく。
『ほぉら、全然違うでしょう?』と。
だからこそ、久々に得た女装の忍務では褒めてもらおうとあちらに相談、こちらに相談と、検討に検討を重ね一式揃えたと言うのに。
そのまま、歩くわけにも行かず、ひょこひょこと近くの茶屋の隅に腰を下ろす。
店の売り子に温かい茶と団子を頼み、そうして草履を拾い上げた。
直すことなど造作も無いことだけど。
(勘ちゃん呼んでもらおうか)
勘右衛門の実家からそこまで離れていない。
小僧に頼んで迎えに来てもらおうかと考えて、いやいやと首を振った。
(勘ちゃんに変な噂が立ったら大変)
兵助を大事に大事にしてくれる友の将来を潰してしまっては大変だ。
「鼻緒、直しましょうか?」
じっと鼻緒を見つめたまま動かぬ兵助に柔らかい声がかかる。
(どこかで)
「すぐに済みますよ。」
柔らかい雰囲気に流され兵助の差し出す草履を受け取った手は己の手ぬぐいを裂き、手馴れた手つきで直していく。
草履を直す手から胸を辿るようにあげた目線。
兵助は己の勘が間違っていなかったことを確信した。
「・・・雷蔵?」
あの日、何も告げずに学び舎を去った友人がそこにいた。
「?」
「雷蔵だろう?」
「ごめんなさい、人違いではないですか?」
記憶より少し大人びた笑みが浮かぶ。
(うそ。ぜったいそうなのに)
誰より耳がよいと言われた己が間違うはずが無い。
「はい、できましたよ。」
柔らかい声と笑顔。
渡される草履を受け取って、兵助はもう一度青年の名を呼んだ。
『ごめんね。でも人違いだよ。』
もう当に使わなくなった矢羽音が返る。
(ほら、そうじゃないか)
「まって」
去る袖を掴もうと手を伸ばすが、その指先一寸さきでその袖はひらりと舞った。
つかめなかった袖を見つめている内にその背は人ごみにまぎれて見えなくなった。
「らいぞう・・・。」
あの日、追えぬのが分かっていながら皆で追った背中は、また目の前で消えた。
じっと人ごみを見つめている兵助の目から次から次へと涙が零れ落ちる。
通り過ぎていく人々が幾度も振り返るのが視界の端に写る。
(あぁ、そうだった。今日はこんな格好をしているんだった)
地面にできた雨の跡と視界に入る鮮やかな着物。
(そうだよね。若い娘が泣いていたらみんな驚くよね)
(勘ちゃん、三郎、はっちゃん、雷蔵がいたよ。らいぞうがいたんだけど)
「届かなかったんだ…。」
小さくこぼれた言葉は誰にも届かないまま静かに空気に溶けた。
小さくこぼれた言葉は誰にも届かないまま静かに空気に溶けた。
「くくち、様?」
かけられる言葉と共にそっと手をとられ、向けた先には勘右衛門の店でよく見る店子がいた。
丁寧な物腰と、穏やかな笑み。
(あぁ、また迷惑をかけてしまう。)
「いかがいたしました?あぁ、そんなに泣いては折角お綺麗な目が腫れてしまいますよ。若旦那に会いにいらしたのでしょう?」
そっとふれる布に次から次へとあふれる涙が吸い込まれる。
そっとふれる布に次から次へとあふれる涙が吸い込まれる。
「一度お座りになって。お店へはあれを走らせますから。ゆっくり帰りましょう?」
手をとられ、先ほど立ち上がったところへ腰掛ける。
すぐ横のはずなのにずいぶんと遠い先で、何かを頼む声がする。
「温かいものを飲むと落ち着きますから。そうしたら帰りましょう。」
受け取った器からじんわりと温かさが伝わる。
離れの中には入らず、縁側の柱に身をゆだねたその人は、ここに来たときと変わらぬ姿でぼんやりと外を見つめていた。
来たときには収まっていた涙が絶えることなくその目から溢れている。
「兵助。」
「雷蔵がね、いたんだ。」
「雷蔵がね、いたんだ。」
久しく聞いていない友の名に勘右衛門はくっと眉を寄せる。
「どこかで会ったの?」
「大橋のたもと。ついさっきだよ。」
『久々知様が泣いて、大橋のたもと。』
「行ってしまったの?」
兵助は声で返さぬ代わりに1つ小さく頷いた。
「間に合わなかった。」
聞こえないはずの泣き声が勘右衛門には聞こえて、縁を回って兵助の前に腰を下ろす。
ゆるゆると結んで開いてを繰返す兵助の手を取る。
「兵助。」
「三郎まだ探しているのに。」
「兵助。」
「人違いだって。」
「兵助。」
「勘ちゃん、雷蔵は私達といるのが厭だったのかな?」
小さく小さく問われた声に、勘右衛門は白粉のはたかれた手を引き寄せた。
胸に抱きこんだ兵助から小さな泣き声がした。
「そんなことない。そんなことないよ。」
周囲の人は在学中も卒業後も、常に状況に動じず淡々と日々をこなす兵助をどうしてか勘違いしているようだった。
誰より近しい人を失うのを恐れていた兵助は己から近寄らなかっただけだ。
だから、期日よりもずっと早く雷蔵が学び舎を去ったとき、三郎よりもそこにいた誰よりも驚いていたし、傷ついてもいた。
(あの日最後に雷蔵の姿をみたのも、兵助だ)
「大丈夫。大丈夫だから。」
うーうーと昨今言葉にならぬかみ殺した声が聞こえ、勘右衛門は抱きしめる腕に力をこめた。
「ほら、泣き止んで。明日からまた仕事だろう?」
こくこくと頷く頭をゆっくりと撫ぜる。
兵助が落ち着き泣き止んだのは、落ち始めた日の光が、温かい色に染まった宵の入りだった。
To be…
相変わらず無駄に長いのに話が進んでなくて申し訳ございませんorz
卒業から数年たっての偶然のすれ違い。
あと一話、二話で終わる予定ですので・・・(終わる気がしないんですけどね)
お付き合い頂ければ幸いです。
花崎
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