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花は毒にも薬にも…
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こんにちは。
花崎です。

2011年度、あ食満しておめでとうございます。
一月過ぎまして、今更なのですが・・・。
2011年一本目です。
勘ちゃんと三郎と伊作です。
怪我及び血の表現がございますので、苦手な方はご遠慮頂ければ幸いです。
※CP要素はございませんが、そこはかとなくそこはかとなく伊鉢風味orz

おっけーまという方はRead moreより先にお進み下さい。

「勘ちゃん。」
「ただいま、兵助。」
「おかえり。」

昇る陽が柔らかい色に部屋を照らす。
呼ばれ、招き入れられた兵助がほっとしたように笑う。
黒曜の瞳がほんのすこしうるんでいるのが勘右衛門には印象的だった。


【 Before Long 】
 

暗闇を滑るように通り過ぎ、井戸の淵に手をかける。
覗き込む先に見えるのは、彼岸かはたまた違う世界か。
(どちらでもいい)
カランカランと派手な音をたて釣瓶を落とす。
闇が広がる時間、思ったよりも音が響いた。
(くせものでなし)
誰も気になぞ止めないだろう。
あぁ、でも血が流れすぎたかも。
この場所はなぜだかその香りに過剰な反応をしめす。
「くだらない」
一つ言葉を吐き出して、勘右衛門は汲み上げた水に思い切り上着を沈めた。
じんわりじんわりと透明が赤く染まっていく。
(難儀な世界だな)
この世界を知らずに生きる選択肢もあった。
温かく優しいあの家で、何不自由なく、続く道への学びだけを手に入れていく、体得していく、そんな道。

 
「進級か…」
己が先を知る教師には進級を勧めないと、言われた。
それはそうだろう。
この学園の先にある道へ進まぬ決意のある人間をみすみす危険な道へ、鬼だか修羅だかしらないがそんな世界を見せる道へすすませたくはないだろう。
己が同じ立場でも同じように、学園を去る道を示すだろう。
なのだけれども、人の裏を全て知り、泣くことも喚くこともしない、あの静かな同室者をここに一人置いてなどいけない。
やっと前を向けるようになったあれをあの場所に一人立たせられない。
(エゴと言うのだっけ)
南蛮の書物を読める静かな先輩は己にそう言っていた。
所詮、自己満足だろう、と。

「そんなこと、しっているよ。」

この場所に留まりたいのは他でもない自分自身だ。
言い訳に友を使う卑劣さもよく分かっている。
あぁ、でもそんな将来(さき) を考えるよりもこの流れ出る赤をどうにかしなければ。
(目が霞む)

 
「勘。お前戻っていたのなら・・・。」
「三郎。」
膝を着き、くみ上げた水の入る桶に手を置いたまま微動だにしない背中をみつめ、三郎は静かに近づき、顔を顰めた。
「怪我を・・・。」
「んー、重傷かな。」
二人で出ていた忍務、追っ手を撒くために分かれたのは二刻ほど前だ。
後ろを走る勘右衛門に言われるがまま、預かった密書を胸に学園まで駆け抜けた。
(あー、抵抗するべきだったな)
酷く濃い血のにおいがする。
お茶らけられるほど軽い怪我なわけがなく、三郎は勘右衛門の腕を有無を言わさずに取り、抱き上げた。
「ちょ、恥ずかしいからやめて。」
「馬鹿いってんじゃねぇ。」
抱き上げた拍子に、色の変わらぬ己の柿葉色の装束が染まったのがわかった。
「捨てるしかないな。」
「ごめん。」
「いいって。それよか、明日泣きつかれる準備でもしておくんだな。」
学年の誰より細い腕が意外と力のあることを勘右衛門は再度思い出し、抱かれたままふっと口元を緩めた。
「あー、いやだなぁ。」
「そういってやんなよ。」
「ん。」
どの部屋からも漏れる光が無くなる暗闇のなか、ぼうっとした光を漏らす部屋が見え、勘右衛門は目を閉じた。
「善法寺先輩に怒られるぞ。」
閉じる瞬間三郎が何か言っていたような気がしたがそれを聞き取れはしなかった。

 

「井戸に行く前に、ここに来なさい。」
翌朝目を覚ました勘右衛門に、伊作は穏やかな声で告げた。
流れるような動作で赤黒く染まった包帯をくず入れに放り込み、丁寧に己の腕を拭いていく。
毒を仕込まれることも無く、鋭利な刃物で切り裂かれたせいか、失った血は多いが思いのほか綺麗にくっつくのだと淡々と伝えたのはつい先ほどだ。
「伊作先輩。」「ん?」
「お世話になります。」
「これが僕の仕事だからね。」
くるくると新しい包帯が巻かれ、綺麗に結ばれる。
「超えたい。」
その様をじっと見つめていた三郎の声が、低く響く。
「三郎が?」
「その手際だけは化けられない。超えたい。」
「お前がかい?鉢屋。馬鹿なこと言ってないでそこの取って。」
「へーへー。」
「返事は、はいでしょう?」
しぶしぶと言った態度の三郎ににっこりと笑って見せ、伊作は勘右衛門の左手をとりあげた。
「痕が残るかもしれないよ。」
「大丈夫です。」
そっと乗せられた薬はじんわりと沁みて、勘右衛門は眉を寄せた。
「それ意外と痛いよな。」
「経験済み?」
「これくらいで丁度いいの。」
包帯の上からつんつんと傷をつつく三郎を伊作か諌める。
ゆっくりと立ち上がる、伊作は、一瞬何かを考えそうして、三郎に笑いかけた。
「今日、五年は休みなんだろう?呼んできておあげ。きっと心配しているから。」
「あー・・・。」
「お前は一晩ここにいたのだから。」
ほらほら、と促された三郎は伊作に静かに何かを伝えると、伊作がつかんだ腕をやんわりと外して戸の外へ消えた。
(あれで意外と仲がいい) 
保健室での治療から逃げ回る三郎とその三郎を易々と捕まえる伊作はもう既に一種の名物だ。
(関係があるとか、ないとか)
どちらでも構わないけれど、二人を見ている限り、お互い大層大切にしているのだということだけは見て取れる。

 

「ねぇ、尾浜。」
「なんです?」
よいしょと顔に似合わぬ言葉と共に腰をおろした伊作は、ことりと暖かな湯気を昇らせる器を勘右衛門に手渡した。
「お飲み。身体が温まるよ。」
「先輩。」
「なんだい?」
「何か言いたげなまま、よそを向くのは止めていただけますか。」
「それだけ、怪我して話せれば十分だ。」
「・・・。」
じっと見つめる勘右衛門に動揺するはずも無く伊作はこくりとのどを鳴らしてほうじ茶を飲み込む。
(熱くはないのだろうか)
「僕が言っていいことかわからないけどね。」
「?」
「忍にならないことは進級しない理由にならないとは思うよ?」
「?」
「まぁ、確かにこの色に袖を通せば一生見なくて済んだかもしれない凄惨なものに出会える可能性はぐんと増えるし、失う怖さをうんと味わうことにもなる。」
その覚悟があるのなら残ればいいよ。
ことり、と音を立てて、湯飲みが床におかれる。
「先輩は。」
「あんたを殺してやるって、ここで辞めたらあんたを殺してやるっていういきのいいガキに胸倉つかまれたからね。」
だから残っているのだよと、勘右衛門が見たことの無い笑みで微笑んで見せた。
「三郎です、か?」
「さぁねぇ。」
からからからと笑う声は何故だかとても楽しそうだった。
「まだ、後輩達に伝えていないこともたくさんあるしね。」
言い訳なら一杯あるよ。
「忍に」
「は、ならないだろうねぇ。向いてないのは一番知っているし。けど、そういう事情を全て汲める医者や薬師はここを巣立った人間には必要だからね。」
「・・・。」
「理由なんてねぇ、尾浜。いくらだって造れるんだよ。」
おや、きたみたいだね。
保健室からまだ離れているが、およそ忍らしからぬ足音が四つ。
そういって、湯飲みを二つ脇によけ、戸が引かれると同時に
「いらっしゃい。」
と笑った。

 

Fin


 
お久しぶりです、花崎です。
2011年一発目は勘ちゃんのお話。
5年と6年の間には越えられない壁があって、そこが最終的な進級の分かれ目だと思っています、勝手に。
花崎の中で勘ちゃんは忍にならぬ未来を描いていますので、その葛藤を表現できていれば・・・。
といいながら、毎度尻切れトンボでもうしわけありません。
お読み頂き、ありがとうございました。
近いうちに5いの話を書きたい。。。

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