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花は毒にも薬にも…
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花の名と話の季節の合わなさといったらないです。

どうも、お久しぶりです。花崎です。
鉢雷(鉢←雷)です。
花崎の一番好きな形。
相愛なんだけど、雷蔵の片思いみたいな関係。


【注意事項】
・空気ではないですが鉢は殆んど話しに出てきません。
・学級の関係をかなり捏造(いや全て捏造っちゃ捏造なんですけど)
・年齢操作(卒業が絡むのでそちらが苦手な方もご遠慮願います)

それでもよいかたは「Read  More」よりお願い致します。



「ね、三郎。」
「ん?なんだ。」
「桜、咲くかな。」

 温かい布団から半身抜け出して、さっと上着を羽織ると雷蔵は、戸を引いた。
長屋の庭には大きな桜が一本。
最近の暖かさに蕾がふっくらと綻び始めている。

 「そろそろ、だろ。」
「そうだよね?またみたいな。」

 ぎりぎり部屋の中。
畳にぺたんと座り込んだ雷蔵は、ゆっくり振り返って、いつのまにか近くに座っていた三郎の膝に倒れこんだ。
ふわふわの髪を優しい手が撫ぜる。

「試験合格おめでとう。三郎と勘ちゃんが一等だったって。」
「らしいな。」
「興味は、ないの?」
「勘と私だ。しくじるわけないし、あいつなら見なくても分かる。」
「そうだよね。」

ふふふと笑って、雷蔵は倒した上体を起こし、三郎を布団へ促した。
(級長の二人はペアを組んでも決してお互いをみない)
六年に進級したてのころ、ぽつりぽつりと噂になった。
声も矢羽音も飛ばさず、それでも互いの位置がわかる、そんな噂。
(背を預け、なにより重い信あり、か)
同学年とはいえその姿は一種憧れを抱かせた。
周りの憧れや賞賛のまなざしの中、己は一人変えようも無い現実を直視した。

 「あと少しなのだから、風邪を引いたら大変。」
「雷蔵もな。」

温かい布団に引きずり込まれ、馴染んだ腕に抱かれた。

 「ありがとう。」
「どういたしまして。」

分け与えられる体温と同じくらい馴染んだ声が鼓膜を揺らす。
もう空気は揺れていないはずだが、雷蔵は己に向けられた声を何度も何度も聞いた。

 

【 都忘れ 】


まだ、ぼんやりとする頭を覚ます為、冬のきんと張り詰めた空気の中、からだをぐっと伸ばす。
布団から出した、温かな脚を抱きこむように冷たい空気が這い登る。
冷え行く身体とは異なり、夢だとわかってはいても、残る情景はとても温かかった。
久しくみなかったあの頃の夢。
たまたま通った街角で懐かしい顔をみたからかもしれない。
あちらはこちらに気付いていないようで、同じく懐かしい顔に笑いかけていた。

(溺愛)

その二人を見て学園にいた頃、そう嘲笑う者達もいた。
確かに濡羽色の彼は、常に柔らかく笑う彼を大層大事にしていたし、その逆は大層大切に見なくていいものを見ないよう、常に前に立っていた。
それはもう、鳥かごに入れた美しい鳥のように。
(だけれども、あれはあれを一人立たせていた)
笑う彼は濡羽色の彼を守るだけの対象にはしなかった。

 『俺が兵助の隣にいれるのは学園(いま)だけ』

 そう笑う彼を思うより鮮やかに思い出せた。
忍にならぬといつ決めたかは知らないが六年目に籍を置きながら、彼はもう決して道の交わらぬ親友を優しく包んでいた。
今はまだ見なくていい。
いつか見るのならまだ先のほうがいい。
己が隣に立てるうちは決して見ないように。
『甘いって言われるけど。いいじゃない。これは俺なりの恩返しだから。』
『恩、がえし?』
『恩返しだよ。兵助がいたから俺は今の今もここにいれるんだ。』
驚く己に彼は常と変わらず柔らかく笑った。
『ま、お互い様だけど、ね』
告げられた言葉はかれが思うより多分ずっと重く己に響いた。

 
最後のおつかいを言い渡された級長二人が長屋を出たのはついさっき。
こんな時期に頼まなくても、なんてぶつくさ言ってはいたが二人は慣れたように柿葉色の装束に袖を通した。
着慣れた緑は空気を抱いて、畳に置かれている。
(急ぎすぎ)
何があっても、勘右衛門は相棒を置いて行くはずがない。
相変わらず三郎ほどうまくは畳めないがなんとか見栄えよく畳めた。
雷蔵はその制服の衿にすっと指を這わせる。
最後の一年驚くような早さで駆け抜けた。
己に似せた髪、その姿。
前を行く彼に追いつく様に、せめて並べるように前を向いて努力をした。

背を正した。

釣り合わないなぞ、誰にも言われたくなかった。
早六年。
努力か時間かは知りえないが、柔らかく己を呼ぶ声も、温かく包んでくれる腕も、当たり前のように常に隣にあった。
周囲もそれを当たり前だと認識していた。

(ほんとうに?)

あれは隣でも横でもなく、半歩前だ。
意図はしていないし、彼も周りの誰も気付いてもいないだろう。
(温かい腕の中は僕の場所。だけどその背は勘のもの。左はハチで右は兵助。)
何度考えても、互いに溺愛しすぎて気持ち悪いなんて言われるい組より、質が悪い関係。
隣になぞ、立てたためしがない。

『不破が死ねと言えば鉢屋はその喉をかっきるだろうな。』

誰の言葉かなぞ覚えて、いない。
いないけれど、己の中に波を立たせるのは充分だった。
(知っている。三郎は、いつも…)
たどり着いた、何度目かの答えに雷蔵はそっと息を吐いた。
欲しくないといえば嘘、になる。
なるのだけれど、それはそれでいい。

 



六年で一番己の足跡(そくせき)を消せるのは誰ですか?
無邪気に尋ねた五つ下の後輩。
あれはまだ秋の深い頃。
そういえば誰と答えたかと、勘右衛門はそっとその場所を撫ぜた。
ひんやりと冷えた木の感触。
(嗚呼、どうしようか。)
三人はやがて此処に来る。
当たり前だ、多分五人笑える最後かもしれないのだから。
急なおつかいはいつものことだし、三郎と己が駆り出される可能性も高い。
だからこそ、帰れば五人集まって誰のときも笑うのが決まりだった。

 『先輩。六年で一番己の足跡(そくせき)を消せるのは誰ですか?』
『ん、雷蔵かな。』
『不破先輩ですか?』
『驚いた?凄いよ。狼や先生にすら辿らせない。』

あの技術力は生半可なものではない。
己たち二人がおつかいに出たのは三日前。
迎えた二人が慌てていないことから、そう時間は経っていないだろう。
(でももう追えない。)
「勘ちゃん?」
柱に手を置いた姿の己に気付いた兵助が廊下の向こうからぱたぱたと小さな音を立て寄ってくる。
「どうしたの?」
大きな黒曜が己の手をなぞり、そうして大きく見開かれた。
「うそ」
「ほんとう」
(まさか、まさかの結末をありがとう。雷蔵。)
 
そこには掛けられているはずの名が一つ消えていた。

その名が外されるのはまだ早い。
「うそだ、ろう。」
兵助に追いついたもう二つの顔が驚愕に染まる。
「どけ」
低い声一つ。
その戸を開ける権利のあるもう一人の部屋の主が、音もなく戸を開ける。

 信じられないくらい、整い片付けられたそこには小さな折り鶴が四つ。
小さくその羽に名を書かれ置かれていた。



ありがとう。
どうか、みんな元気で。

  

小さな、けれど、長いながい祈りが灯っていた。

 

 

 

To be・・・









あとがき
花崎です。
どうしてもこの話しを幸せな終わりにしたいので続きを書こうかと思っております。
ただ思う形にまとまらず・・・いつになるやら、という感じですが。
イメージソングはCo*coの「も/く/ま/お/う」

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